今年で活動50周年を迎えた作曲家・林哲司
1973年にシンガーソングライターとしてデビュー以来、今年で活動50周年を迎えた作曲家・林哲司。昨今は主にシティポップの作り手として脚光を浴びているが、ご本人も事ある毎に主張されているように、それはあくまでも一側面に過ぎない。実際はオールジャンルの作曲家・編曲家としてずっと第一線で活躍を続けてきた。
林は、16歳の誕生日を迎える直前、加山雄三が「君といつまでも」より前に作曲家・弾厚作名義で初めて世に放ったヒット曲「恋は紅いバラ」をテレビで聴いて開眼したという。
ヤマハ音楽スクールを経て、同社発行の雑誌『ライトミュージック』の編集に携わった後、1973年3月に自らの作による「僕の隣の孤独」でレコードデビューを果たす。
歌手としては大きなヒットこそ生まれなかったものの、1977年にしばたはつみ「マイ・ラグジュアリー・ナイト」の編曲で注目されたのをはじめ、1979年には竹内まりや「SEPTEMBER」や松原みき「真夜中のドア」を作曲・編曲。さらに80年代に入ると、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」などヒットメーカーとして大活躍する。
林がこれまでに手がけてきた2000曲を超えるといわれる作品は、歌謡曲、ポップス、アイドル、ディスコサウンド、アニソン、テレビ主題歌、映画音楽、CMソングほか、実に多岐にわたり、正しく職業作曲家と呼ぶに相応しい。50周年にあたり、この度複数の作品集が各社からリリースされることになった。それでも膨大な数に及ぶ作品の一部に過ぎないが、埋もれていた楽曲の初CD化もあって見逃せない。
アイドルポップスとアニメ主題歌で構成された「林哲司 コロムビア・イヤーズ」
その中のひとつ、『林哲司 コロムビア・イヤーズ』は2枚組で、1枚目は主にアイドルポップス、2枚目はアニメ主題歌を中心とした構成。レーベルのカラーが浮き彫りにされた、シティポップとはまた異なる作曲家・林哲司の魅力が堪能出来る、興味深い選曲となっている。
コロムビアのアイドルといえば、河合奈保子や伊藤かずえ、富田靖子、島田奈美といった辺りが有名だろう。少し踏み込めば、原真祐美や志村香、国実百合といった名前も出てくる。それらすべてに林は楽曲を提供していた。
『電子戦隊デンジマン』のデンジ姫役などで特撮ファンにもお馴染み、東映育ちの女優だった舟倉たまきのデビュー曲「気分はレッド・シャワー」が林の作曲・編曲というのは少々意外な気もする。しかし改めて聴いてみると、爽やかで洗練された好楽曲なのだ。
キラキラしたアイドルソングだけでなく、中村雅俊「バズル・ナイト」や鈴木茂「SUNSET DANCE」(インストゥルメンタル)といったベテラン勢の作品も。そしてなんといっても美空ひばりに提供した「背中」が威光を放つ。
美空ひばりの生前最後のオリジナルアルバムとなった1988年の『川の流れのように~不死鳥パートⅡ~』に収録された曲で、没後にやはり林の作による「孔雀の雨」とのカップリングでシングルカットされた作品だった。
八代亜紀と桂三枝(現・桂文枝)による「熱海あたりで」は、静岡出身の林が珍しく手がけたご当地ソングの企画盤。実に幅広い。
ジャンルを超えて広く親しまれて欲しい普遍的な作品
2枚目ではさらに多彩な林の仕事ぶりが窺える。内田順子「ボディーだけレディー」を筆頭とするアニメ『キテレツ大百科』の主題歌・挿入歌や、先日惜しくも他界したアニキこと水木一郎の「風色のランナー」は『ジャングル大帝(新)』の主題歌であった。「ドラゴンパワー∞(むげんだい)」など影山ヒロノブによるパンチの効いた楽曲群は、ヒットポッブスにおける林の普段の作風とはかなり異なっており、思わず唸らされる。
アニソンの女王・堀江美都子が歌う「星空を見上げてごらん」も、ジャンルを超えて広く親しまれても不思議でない普遍的な作品といえるだろう。
ライヴ開催や新人育成など、現在も活発に作家活動を続けている林は、筒美京平亡き後の日本のポップス界を支えてゆく役割を担うべき稀代のメロディメーカー。願わくば作曲家になるきっかけとなった加山雄三への楽曲提供を実現させて欲しい。ジャパニーズポップス最強のタッグでどんな作品が生まれるかが期待されてならないのである。
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2023.06.18