3月21日

大滝詠一と松本隆の最高傑作「君は天然色」がセピア色に染まることはない

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photo:SonyMusic  

まさに天然色、大滝詠一「君は天然色」


大滝詠一の「君は天然色」は、まさしく天然色な曲だった。ラジオから流れてくると、目に映るものは鮮やかな色彩を帯び、万華鏡のようにきらめいた。

あのとき、僕はスーパーの隣りにあった小さな空き地で友達と一緒だった。小学6年の1学期が始まって、まだそれほど経っていなかったと思う。僕はもう音楽に夢中で、よくトランジスタラジオを持ち歩いていた。寺尾聰の「ルビーの指環」が大ヒットしていた頃のことだ。

「君は天然色」が流れてきたのは、ちょうど「ルビーの指環」の後だった。みんなで寺尾聰の物真似をして、げらげら笑っていたから間違いない。そんな他愛のない時間の中で、この曲のイントロを聴いたのだ。

イントロは「カリフォルニア・ガールズ」と同じ世界観?


大袈裟ではなく、本当に景色が変わった気がした。目眩がするくらいカラフルなのに、なぜか懐かしく、明るいメロディーはどこか切なかった。「ルビーの指環」との対比もあって特にそう感じたのかもしれない。今思うと、どちらの曲も松本隆が作詞をしているわけだが、続けてかかったのは単なる偶然だろう。

曲を聴きながら、僕らは顔を見合わせ、「すげー!」と言い合った。それまで聴いたことのない音楽だったからだ。あの分厚いイントロが、まるでシンフォニーのように響いたことを、今でも鮮明に覚えている。後にビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」のイントロを初めて聴いたとき(正確にはデイヴ・リー・ロスのカヴァーだった)、僕は同じように感じ、あの日の「君は天然色」を思い出した。この2曲は同じ世界観を共有していると思う。

松本隆の歌詞は「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」?


歌詞の見事さに気づいたのは、小学生だと理解できなかったことが、少しずつわかるようになってからだった。それまで意味もよく知らずに歌っていた言葉たちが、突如サウンドと溶け合うようにして、クリアなメッセージを投げかけてきたのだ。僕がとりわけ好きなフレーズは…

 渚を滑るディンギーで
 手を振る君の小指から
 流れ出す虹の幻で
 空を染めてくれ

可憐な少女が、船の上から自分に向かって手を振っている。その姿があまりに眩く、彼女の揺れる指先からは虹が広がり、青い空を色鮮やかに染め上げていく。なんと美しい光景だろう。まるでビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」みたいだと思った。

流れ出す虹の幻… その儚さこそがこの曲のキモ


“虹の幻” という言葉がいい。つまり、「君は天然色」は現実ではなく、夢なのだ。実在しないのだ。その儚さがこの曲の肝なのかもしれない。松本隆がこの歌詞を、若くして亡くなった妹をモチーフにして書いたと知ったのは、それからずっと後のことだった。

発売から38年が過ぎても、「君は天然色」がセピア色に染まることはない。あの魅惑のイントロが鳴れば、曲は時間という概念を軽々と飛び越えてしまう。僕の心の中の空き地は、今も色鮮やかなきらめきに包まれている。


※2019年3月21日に掲載された記事をアップデート

2019.12.30
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