甥っ子の大学時代のバイト先は、昭和25年創業の都内の洋食店。ツタが絡まる古い洋館、白布のテーブルクロス、銀のソースポットなど、これぞ老舗という店構えの人気店だ。今もたまに妹と食事に行くのだが、すると「やっぱり似てるよねえ。」と思い出話に花が咲くのが、1979年の日本テレビ系ドラマ『ちょっとマイウェイ』について、である。
毎週土曜のお約束。『Gメン’75』派ではなかった私は、ドリフの後は日テレだった。架空の街、南代官山にある潰れかけのフランス料理店・ひまわり亭を復興すべく、三姉妹が奮闘するハートフルでキッチュで優しいコメディー。番組キャッチコピーは「桃井かおりと研ナオコが織りなすオトメチック爆笑喜劇」、脚本は鎌田敏夫他、音楽は荒木一郎。研ナオコは当時『カックラキン大放送』などの生放送と掛け持ちで、多忙を極めていたとか。
とにかく、役者も役柄も魅力的で、全員抱きしめたいくらい愛しい。桃井と研の「カツ子ちゃん?」「なつみ~」のやりとり。天然ボケがあまりにキュートな姉、八千草薫。緒形拳のやもめシェフ、峰竜太のケツニ、左時枝のはすっぱウェイトレス、ナポリタンしか作れない秋野太作。特になつみちゃんの言葉のイントネーションが独特で、可愛くってたまらなかった。クラス女子皆で物真似したっけ。
なつみ「カツ子ちゃん、どうしたの?」
カツ子「眠いー」
なつみ「じゃ、寝なさい」
カツ子「おなかすいて寝られなーい」
なつみ「じゃ、食べなさい」
カツ子「眠くて食べられなーい」
2人のやりとりは終始こう。ふんわりしたバカバカしさが延々続く。こんな掛け合いを土曜の9時という時間帯に観ていることが、子供にとってどれだけ幸せだったか!
物語の小道具やエピソードもいちいち素敵で憧れる。古い代官山駅の改札風景や、店裏の噴水広場で皆で一服するシーン。八千草がジャガイモを剥きすぎ仕方なくコロッケを作って店頭販売したり、大口の客を獲得するのに格安でバイキングの予約を受けて失敗したり、大量にもらったみかんを何とか商品にすべく知恵を絞りシャーベットにしてサービスで出したりと、店の危機を救おうとする核の物語が、記憶の向こうから幸せに甦る。まさにレストランドラマのオーソリティー!ストーリーは忘れても、フランス弁当500円は覚えている。
主題歌はパルが歌った「夜明けのマイウェイ」。このオープニングが始まると、目がテレビに釘付けになった。爽やかなイントロ、前向きでちょっと泣かせる歌詞、映像に漫画家・倉多江美のイラスト。12歳の私にはまだ、悲しみって何なのかよくわからなかったけれど、これから悲しみをいくつか乗り越えるんだな、という漠然とした未来を思った。生まれて初めて感じるやるせなさや切なさに、大人になることの意味を思った。
主題歌を含むサントラ盤「カリフォルニア・グレープフルーツ、フレッシュ・オレンジジュース」は、荒木一郎が全作詞・作曲とプロデュースを手がけている。初 CD 化は1994年6月。
そういえば、「ちょっとマイウエイ」なるタイトルは、“ゴーイング・マイウエイ” という言葉が元らしい。バリバリと猪突猛進するより、“女の子が一休みしつつもちょっとがんばる” と言ったニュアンスを出したくて「ちょっとマイウエイ」になったそうだ。
80年代は女の時代などともてはやされていた中で、そうしたテーマを巧妙にズラしたところが洒脱だと感心する。だからなつみちゃんは、お洒落だけど正直者で感情ダダ漏れだし、頑張り屋でマイウェイだし、でもなかなかにすごい経営手腕を持っている役柄だったのかもしれない。
調べてみたら、甥っ子のバイト先は、まさにドラマのモデルになったレストランらしい。庶民のために味を守り抜く、老舗洋食屋の誇りと気概。活気のある温かいもてなし。何だか、何気ない日常の暮らしと人の繋がりを柔らかに描くこのドラマにリンクしている気もする。
ちなみに名物はハヤシライスだ。いや、カニクリームコロッケもいい。タンシチューも押さえておきたい!
また行こう。家族や友人を誘って。笑いながら美味しい料理をたらふく食べるのだ。ゆっくりゆっくり。ちょっとマイウェイ。
※2016年10月18日に掲載された記事をアップデート
2019.10.13
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